暖かい、甘い、そして苦い | アジアを旅する

暖かい、甘い、そして苦い

僕が乗った列車の車両は一つのコンパートメントに6つのベット、両サイドに縦三段ベットがあるタイプであった。僕はそこで一人の日本人旅行者と一緒になった。彼の頭はスキンヘッド、ギターをかついで僕の隣にやってきた。見るからに旅人って雰囲気で、ギターを背負って旅しているところが妙にかっこよく見えた。が、なんと彼は今回のインドが海外初めての旅で、まだ日本を旅立って一週間くらいしか経っていないと言うのだ!インドが海外初めての旅・・・。なんかたくましく見えるが少々無謀な気もする。僕もインドに入って一週間ほどだったのでお互い親近感を覚える。二人でこれまでの旅の話や、日本での生活なんかを話した。

そうそう、インドで日本人と会って話をすると「ぼられました?」という質問をお互いにする。僕みたいなインドは初めてです、っていう旅人は大抵デリーに着いて1日、2日でぼられているのだ。彼もデリーについてからすぐに怪しい旅行会社に連れて行かれて数日間で4万円もするツアーを組まされてしまったらしかった。そのツアーもバラナシで終わってようやくこれから自由の旅をするということだ。ああ惨い・・・ インドで4万円といったら現地の物価から考えると10万も20万もする価値なのだから。事実、こういうふうに到着してすぐに大金をぼられた人には沢山出会った。まあ、実は僕もデリーでぼられそうになって、結局少々ぼられてしまったのだけど。まあ、その話は後々ということで。

さて、列車内に話を戻そう。僕と彼、彼というのもあれだしサトシさんということにしとこう。僕とサトシさんのベットは両サイドの三段ベットの一番上だ。ちなみにベットから天井までの高さは1mもないから、これまで2人で話し込んでいた時の体勢は、実は想像以上に腰に負担がかかるかっこ悪い姿勢なのだ。

夜も深まりお互い寝ることにした。僕はバックパックを枕に、腰につける小さいバックを頭の横において寝る準備をした。僕はこの時、間違いを犯したのは、同じ列車で日本人に出会って、話をして、心に少しの安心と油断を作ってしまったことであった。いつもはお金も分散して持つし、T/Cも航空券も肌身はなさず持つし、デジカメも普通はバックパックに放りこむのに、この時に限って小さいバックに何故かすべて詰めてしまったのだ。普段なら絶対しないのに何故かわからないが心の油断がそうさせたのだ。そして、よりにもよって小さなバックをどこにもくくりつけることもなく、顔のすぐ横に置いて僕は寝てしまった。これまで列車に乗ったけど、何も盗まれなかった。今回は一番上のベットだし絶対大丈夫・・・。どこかでそう思ったのかもしれない。

しかしながら、現実はそう甘くないのだ。決して甘くない。

バラナシからサトナへ。列車は暗闇の中を轟音を立てながら走っていく。
窓からは何も見えない。黒、暗闇だけが広がる窓の外を見ていると、ふと、本当は外には暗闇しかないんじゃないだろうか、と思えてくる。恐怖を覚える。
紫色の雷が向こうの方の雲の間で輝いた。その瞬間、窓の向こうには草原が広がっていてその奥には山があることがようやくわかる。
一瞬、ホッとした。



暗闇
# ある町の路地裏で
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